みえアカデミックセミナー2012で講演をしました(小川束)

7月13日,三重文化会館で「江戸時代の魔方陣」について講演をしてきました.90名ほどの参加者があったそうで安心しました.というのも,わたしは2009年にも「江戸時代の数学文化」について話をする機会があったので,今回は激減して10名とか20名の参加者だったらどうしよう,と心配していたからです.あるいは団塊の世代の方々が来られたからかも知れません.

講演の内容は,中国の固原で出土した6次の魔方陣と,江戸時代の魔方陣研究とについてで,講演時間が最大2時間あったので,いろいろなことをゆっくり話すことができました.同じ魔方陣でも,中国では魔除けといった神秘主義的な観点が重視され,一方の日本ではそのような観点はなく,大きな魔方陣を作成する技術的な方法に研究の重点が置かれたことを最後に強調しました.同じ主題でも見方が異なると,異なった発展をします.ということは,見方によっては目の前にあっても見えないことがある,ということです.これが文化の違いということでしょうか.

聴いてくださった方々に満足いただけたらうれしく思います.

6件のコメント

  1. 不思議なものに惹きつけられるというのは人間の本性だと思います。あくせく働くことを終えた団塊の世代からの参加者が多いのは、ある意味、自然ではないでしょうか。数学は自然科学の基本なので、日本が技術立国として生きてゆくためには、コンピューターよりも前に数学教育に力を注ぐべきです。団塊世代が数学に興味を感じている流れが、若い世代の教育にも広がると日本の底上げになると思います。

    • コメントありがとうございました.数学教育に対する熱いご支持(ちょっと大げさ?)をいただき,心強い限りです.数学は人類の歴史おいて常に学問の中心にありましたが,それは現代でも同じです.技術者は目前の問題を試行錯誤しながら解決することを要求されますが,同時に発想の転換も必要だと言われます.この「発想の転換」ということに関して,最近刊行された上野健爾著『数学者的トレーニング』(2012年,岩波書店)の冒頭に次のようにありました.

      数学は既存の知識をいかにして越えて,新しい考え方を生み出すかという苦闘の歴史である.それはその時代時代の特有の思い込みからいかに自由になるかという歴史でもある.そのためには,視点を変えながら既存の知識をその極限まで使いこなすことが必要である.新しい考え方は,ある日突然頭に浮かんでくるが,それはそれまで,自分が知っていることを使ってその極限まで考え続けてこそ,はじめて起こることである.数学者の営みはこのことを実行することであり,数学者的思考法とは実は数学者だけでなく,現代人にも必須の思考法である.

      数学が技術立国の基礎ということは,ツールとしての数学の必要性に加えて,本質的にはこういうことなのでしょうね.

      • 上野先生の言葉はよくわかります。考え抜いて、ある時、突然アイデアが浮かぶというのは数学の世界だけのことではありません。私はご存知のように数値シミュレーションを専門としています、欧州の研究者などと触れ合うと、数学の基礎がしっかりしていることを実感します。基礎のしっかりした研究はやはりどっしり見えて、迫力があり、その研究結果は皆から信用され、引用されます。

        • 環境情報学部 小川束

          なるほど,そうだろうと思います.そうだからなおさら,適切な数学教育が必要ですね.最近では(昔から?)工学部では数学者の数学の講義は評判が良くないようですが,千葉先生が学生の頃というのはどうでしたか?

          • 35年くらい前の話ですね。ただの思い出話になってしまいますが、教養学部の数学の授業は悲惨でした。線形代数も解析学も数学科の教員が来て、学生の理解など全く気にせず、超難解の授業を展開しました。工学部に進んでからは、微分方程式の授業が必修でしたね。これは実学との関係があり、演習問題も多く、面白かったと記憶しています。その後、独学でもう一度数学を勉強しましたが、その時は「工学者のための解析学」とか、「工学者・・・」シリーズを読みましたね。工学家にとって、数学家の操る数学は理論的過ぎて分かり難いのです。逆に、数学家からすると、そのような数学本は評判が良くないのかもしれません。そういえば、昨日、小川先生の授業のクラスの学生が、僕のところに質問に来ました。微分方程式に関する質問でしたよ。懐かしくお答えしました。

  2. 環境情報学部 小川束

    千葉先生.数学のできる千葉先生が「超難解だった」とはちょっと意外でした.確かに,高校3年と大学1年の数学ではギャップがあるのも確かですが.数学のどこまで厳密に述べればよいのかが悩ましいところです.厳密に話せば理解し易いかというと,そうでもないようですね.

    学生が質問に行ったとのこと,ご面倒をおかけしました.わたしの教科書では変数分離型の微分方程式の解法を合成関数の微分法からある程度きちんと説明していますが,ここが学生には結構難しいようです.dyとdxは分数ではないと習ったはずなのに,いつの間にか「dxを移項して」などとなっているのが気に入らないからきちんと説明しているのですが,そんなことよりも計算方法を教えてくれれば十分だ,という意見もあるのでしょうね.ちなみに私の教科書では最後に,放射能の親,娘核種の満たす微分方程式を解くために,1階線形微分方程式の解法が書いてありますが,微分,積分の科目を受講していない学生がいる(!)ので,今年は話しませんでした.このあたりがおもしろいところかも知れませんが...

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