数学史名古屋セミナー(第17回)を開催しました(小川束)

7月14日(土),第17回の数学史名古屋セミナーを開催しました.今回は中国科学院自然科学史研究所の韓琦(Han Qi)先生,お茶の水女子大学の真島秀行先生,そして森本先生が発表されました.

韓琦(Han Qi)先生の発表のタイトルは”The Transmission of Western Mathematics during the Kangxi Reign (1688-1722)”でした.「康煕帝時代の西洋数学受容」といったところでしょうか.日本の数学史研究は量的に江戸時代が多く,明治時代の西洋数学受容に関しては数学教育関係者を除けば多くありません.それに対して中国では清朝における西洋数学受容に関する研究は多くなされています.

江戸時代の日本は西洋文化をほぼ完全に拒否しましたが,明治になると逆に日本は西洋の文化を積極的に,無条件に導入しました.これに対して中国では常に既存の中国思想との葛藤があり,無条件ということはあり得ませんでした.また中国内には満州族,漢族,蒙古族などの民族間の葛藤もあり,複雑な様相を呈しています.日本と中国とでは西洋文化受容の過程,その思想的意義が非常に異なることを改めて知ることができました.

真島先生は「解伏題之法,大成算経巻十七,算学玄訓の行列式」というタイトルで発表をされました.関孝和,建部賢弘,賢明時代の行列式の項のまとめ方の変遷に関する発表です.真島説を要約すると,

(1)『算学玄訓』の「解伏題之法」は『解伏題之法』の初稿だ

(2)自然な上手な方法を知っていた

(3)しかし,さらに検討して簡単なものに変更して解伏題之法重訂にした

(4)しかしこれは5次以上では正しくないので,大成算経はもとの自然な上手な方法に直した

ということになりましょう.(1)の『算学玄訓』の『解伏題之法』は『解伏題之法』の初稿だ,という説は新鮮でした.

セミナー終了後は寿司屋で韓琦先生を囲んで歓迎会(?)をしました.研究者が遠くからセミナーに参加してくださり,また,セミナー後に食事をしながら皆であれこれ歓談できることは本当に幸せなことです.

1件のコメント

  1. Wikipediaによれば行列式は16世紀頃に西洋で考えられるようになり、ガウス消去法のようなアルゴリズムは中国でも検討されたそうですね。関孝和も行列式を独自に考案したと書いてありました。線形代数の授業でこのような話題に触れると、留学生も日本人学生も、また違った視点で数学を見ることができますね。

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