感性と創造
黒島哲夫/メディアコミュニケーション専攻
専門基礎に位置づけされているこの講座は、メディアコ ミュニケーション専攻を選択した1年生の後期に受講する事になっています。この講座が開設されて数年が経ちました が、ようやく初期の理念と目標をクリアできるレベルに熟成されてきましたので、少し報告させていただきます。
現在の情報環境は、木村眞知子准教授がよく話されてい るように、「誰でもテレビ!」の時代であり、誰もがネット的にもリアルな社会においても、パソコンやハンディーカム を駆使して、ネットでの発信や既存の媒体にアクセスすることが出来、多くの人々にメッセージや表現を届けることが可 能になっています。
しかしながら、このような時代になったにも関わらず、 だれもが必要とするメディアを駆使した表現能力や発信力が、実は小中高の教育では充分に開発されておらず、その結果 として、教育の現場では意識的に顧みられなかった領域になっているよう見受けられます。つまり、アナログ脳を使う訓 練やアナログ脳の機能を意識した教育プログラムが、小中高では希少化しているのではないでしょうか。
そこで、脳機能のうちの感覚器官による情報の受容と、 身体を駆使した発信について、つまり、デジタル脳、アナログ脳の機能と働きについての概略を知り、とりわけアナログ 脳を使い、非言語的な能力を活性化する課題に取組ませることを、メディアコミュニケーション教育の根幹にしてみたい と考えました。
一言で言うならば、「想像力」を働かせる脳の領域を意 識的に活性化させることです。講義でも繰り返し言っている事ですが、「創造は、まずは想像することから!」。言語数 値処理能力を司るデジタル脳を鍛えることに収斂している現在の学校教育からどんどん抜け落ちてきた領域であり不十分 であった領域を、まずは再構築することから、メディアコミュニケーション教育を始めてみようという試みです。
この試みを実現するため、この講座では実際に手を動か し頭を使って何かを制作するという実習的な課題を多くあたえています。そのラインアップを少しご紹介しますので、そ の狙いを「想像」してみててください。
課題群の例とし て:
A. 与えられた4つのプロットを、写メを駆使して擬 人化し、4枚のフォトストーリーに仕立てる。例えば、そのプロットとは「出会う→ラブラブになる→喧嘩する→別れ る」
B. ある女性へのプレゼントとして10曲の楽曲で構成されたCDを最初から最後まで実際に聴いてみて、そのプレゼンターの伝えたかったメッセージを想像し、書 き出してみる!
C. ある写真家(動物写真家でエッセイスト)の書いたエッセーを2章分読破し、想像しやすいいずれかの1章を選択して、フィールドにいる写真家(エッセイス ト)を取り巻く環境を想像で、指定用紙(A4用紙に9:16で枠取りされている)に描き出してみる!
以上のようなエントリーレベルの想像力開発コースを積 み上げ、最大の課題であるパラパラアニメの制作へと繋げています。まずは、パラパラアニメの絵コンテとなる4コマ漫 画を1課題として与え、講義では、黒島が各自のプランを受講者全員の目の前で駄目だしします。OKの出たメンバーに は、総枚数80枚になるメモ用紙(5ミリ間隔のグリッドの入ったメモ帳)を与え、80枚を使い切らせてパラパラアニ メを制作させます。制作期間的には2~3週間の余裕を与えています。
このように、実際的に想像力を使う課題をこなしなが ら、講義の後半では、デジタル脳、アナログ脳の話を感性科学の知見をもとに説明しています。なお、感性科学からの話 題については、前川督雄教授による2年生対象の「情報環境概論」で、より詳しく、最新の脳科学の知見をもとにした講 座が用意されています。
さて、受講した学生たちからの感想を観ていると、総じ て好評ですが、なかでも、「自分は描く事が下手で苦手でしたが、下手でも良い事を知りました」、「あり得ない事を考 えるのは、つまり妄想はいけないことだと思っていましたが、想像することは大切なことなのだと解りました」と言った 感想が届いており、講義の趣旨は充分に学生たちに届いているようです。
従来、表現という領域は、社会的には極めて専門性の高 い高等教育が長年にわたって続いてきました。芸大、音大、デザイン専門学校といった機関が、その代表例と言えます。 しかし、時代はそのような専門性を置き去りにするくらいのスピードで変化しており、大学教育はこの破壊的な社会変革 に即応したポリシーと講座を用意して進むべきだと考えています。その意味でも、初年時カリキュラムに、「メディアリ テラシー」(2013年度より1年生が受講する3学部共通科目となっています)とこの「感性と創造」の講座を用意し た環境情報学部は、貴重な革新性を持っていると言えるでしょう。
パラパラの動画