日々の研究活動(4)2018年4月24日(火)(小川)

毎週火曜日はロザリー・ホスキングさんとセミナーの日です.ロザリーさんはニュージランド・クライストチャーチの出身で,当地のカンタベリー大学から日本の算額(数学の問題が書かれた額)の研究で博士号を取り,2017年の10月から日本学術振興会の外国人特別研究員として2年間の予定で私の所へ来ている若い研究者です.現在,一緒に『大成算経』の最初の2巻の英訳に挑戦しています.
 
『大成算経』は関孝和(?-1708)とその弟子の建部賢明(1661-1716),賢弘(1664-1739)兄弟が天和3年(1683)から28年を費やして書いたと伝えられる全20巻,900丁(1800ページ)の大著です.ひょっとすると,最初から最後まで精確に読んだ人はまだいないのではないかと思うくらいの大著です.
 
『大成算経』第2巻には「金蝉脱殻」という名前の掛け算の方法が書かれています.長い間,私はその言葉の意味がわかりませんでしたが,今日ロザリーさんと話をしていて,ようやく理解できました.金蝉脱殻は中国の兵法の一つで,戦いの場から退却したり転戦する場合に,まだ陣地にいるように見せかけて,敵を欺きながら退却,異動する方法です.「金蝉脱殻」は読んで字のごとく「金の蝉が殻を脱ぐ」という意味で,敵が気づいたときには陣地は蛻の殻というわけです.写真は143と55とをかける計算の仕方を表したもので,右側の1,4,3が次第に0(空)になってゆき,左側に掛け算の結果が現れてきます.右側の様子を「金蝉脱殻」とはよく言ったものです.ちなみに,この名称は中国の数学書『算法統宗』(1599)にあります.
 

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