後藤朱実さんのカンボジア訪問記(その3)

環境情報学部4年次生(社会人学生)の後藤朱実さんが卒業研究のためにカンボジアを訪問しました。その報告の第3回目です。
 
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今回のカンボジア訪問の一番のポイントは現地の人にインタビューすることであった。その内容として、それぞれの人の稲作事情や、クメール・ルージュ(ポルポト政権)の頃のことを聞きたかった。
 
シェムリ・アップから20㌔ほど離れた地で、クメールの伝統の染め織りを復興させるために再生された村がある。そこでは、暮らしながら、アンコール王朝の時代から受けつがれた絹絣の染め織りに励む人たちが住んでいる。そこで、その当時を経験した比較的年齢の高い人たちや、その時代に子どもだった若い人たちにインタビューすることが出来た。そのような場所があるのを知ったのは、3月にカンボジアに行く前に読んだ一冊の本との出会いからである。
 
予定していた日の数日前に大雨で洪水になり、村全体が浸水してるとの連絡があった。心配していたが、水が引き、予定通り行くことが出来た。
最初、クメール・ルージュのことをどのように聞けばよいか迷いもあったが、どの方もその話題にふれた途端、まるで秘めていた苦しさを吐き出すように多くを話してくれた。
 
当時、20歳台以上だった人たちが一応に言うのは、今は働くことが出来るし、食べることが出来る。そして着るものもあるし、選ぶことが出来る。そして何より自由がある。家族が食べていければそれでよい。家族が生活できればそれでよい。今の生活に満足している。でも、出来ればあのとき失くしてしまった田んぼを取り戻したい。それを甥っ子にやりたい。田んぼが増えればお米をよりたくさん作れるからと。時には涙を流されることもあったが、どの人もこころの中をそのまま語ってくれたように思う。
 
またその頃、2歳から9歳位の子どもだった人たちは、今は家族が一緒に住めて幸せである。当時私たちは親と離され、一日2回だけの水ようなおかゆだけだった。黒い服を着せられ、大人と同じような強制労働を朝から夜までさせられた。すごく嫌だったけど、逆らえば殺されることわかっていたから、黙ってするしかなかった。
 
今欲しいと思うものは、もう少し広い自分の家だ。家族が増えて少し狭くなったから。決して物質的なものだけで、こころが満たされないことを、この人たちは身に染みてわかっているような気がした。この村では森の中の広い土地の中にそれぞれの家があり、それぞれの家族が暮らしている。昼間は電気はないが、日没から夜の10時まで発電機で電気が使えるようになっているとのこと。共同のものもあるが原則的には一つの家族は独立していた。
 
この村を訪れて強く感じたのは、クメールの文化は、クメールの人たちしか伝承することが出来ないということ。素晴らしいアンコールのクメールの伝統を固守しながらクメールの伝統的文化を新しくつり出すことにこのクメールの人たちが誇りをもってやり続けていることに深い感銘を覚えた。彼女たちが心の中から編み出す染め織りの一つ一つが、他に類を見ない優れた芸術作品であった。その人たちを支えるある人が語った。「技術のコピーは出来ても、こころのコピーは出来ませんから。」と。この言葉の中に込められた深い重みを感じつつこの村を後にした。

3件のコメント

  1. ポルポト政権は人類歴史上、最も残酷な独裁政権のうちの一つでした。ポルポトがクメール・ルージュのリーダーかつカンボジアの首相であった数年で、この政権による虐殺と餓死によってカンボジアは人口の四分の一を失ったと言われています。彼が国際法廷に引き出される前に死亡したのはとても残念です。裁判があれば、このカンボジアの苦悩の歴史がもっと世界の人たちに印象を残したでしょうに。でも、いずれにしても、私たちは人類の歴史の中にこのような残虐・非人道が実際に起こったことを忘れてはなりません。 
    後藤さんやこのブログの読者は若いので多分ご存知ないと思いますが、The Killing Fieldという非常に優秀な映画があります。実在したカンボジア人のジャーナリストのポルポト政権脱出を描いた映画です。もしチャンスがあったらぜひ見てください。(私はいつもこのような内容を英語で読み書きしているので日本語だとかなり言葉足らずになっていると思いますがご容赦ください。カナダのモントリオールより。)

    • Mariko様

      コメントをありがとうございます。

      私も、映画「The Killing Field」 何度も観ました。

      そして、このたび、カンボジアの稲作を卒業研究するにあたり、3月にはじめてカンボジアを訪れてみて、クメール・ルージュ(ポルポト政権)のこと抜きで、現在のカンボジアの稲作が語れないことを知り大変な衝撃でした。

      いったい何があったのか、なぜあのようなことが起こったのか、
      これからの人たちにも知ってほしいと思います。
      よりよい未来のためにも歴史から学ぶことは大切なことだと痛感しています。

      知れば知るほど疑問の連続ですが、それらを追及していきたいと思います。

  2. Marikoさま

    早速にコメントありがとうございます。

    映画「The Killing Field」 私も何度も観ました。

    このたび、卒業研究のテーマを「カンボジアの水田・稲作」としたことで、3月に初めて当地を訪れ、
    クメール・ルージュ(ポルポト派)のことを抜きにして、現在のカンボジアの稲作を考えられないことを知り、大変な衝撃を受けました。

    何があったのか、なぜあのようなことが起こったのか。
    これからの未来のためにも、
    一人でも多くの若い人たちにも関心を持ってほしいと思います。

    知れば知るほど、多くの疑問が湧き上がります。
    それらを一つ一つ追及していきたいと思います。

    カナダからありがとうございます。

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