伊勢湾の海岸に高密度に分布するマイクロプラスチックとして徐放性肥料の被覆樹脂(徐放性肥料プラスチック)があります。特に伊勢湾中部以北の三重県側の海岸では個数割合が最も高いマイクロプラスチックです。
徐放性肥料は硫安などの窒素肥料をポリエチレンやポリウレタンで被覆したものが多く、追肥が不要になるために省力化に役立ち、肥料が効率的に吸収されるなどの特性もあるために、稲作を中心とした日本の農業で多用されています。
徐放性肥料は田植え前に施肥され、刈取り頃には肥料は溶け出して、樹脂被覆のみになると考えられます。そして、翌年以降の代掻き(田植え前の耕運作業)時などに地中から水中に浮き上がり、増水時などに用水路や河川へと流出し、最終的に海に流れ出していると推定されます。
伊勢湾中部以北の三重県側で多いのは、濃尾平野を中心とした水田から流出した被覆樹脂が木曽三川を通じて伊勢湾に流れ込んでいるためと考えられます。
千葉研究室では、伊勢湾周囲の海岸での存在量、季節変化などを詳しく調査中です。また、太陽光線に暴露させた場合の分解速度(光酸化分解)も調査し、酸化度を分子構造(カルボニルインデックス:ポリエチレンの分子鎖への酸素の結合状況を表す指標。赤外線の反射特性から判定する)の変化などから調べています。その結果、海岸で採取した樹脂被覆はほとんど酸化されておらず、施肥前の肥料と大差ないことが分かっています。これは、樹脂被覆が劣化されないまま、海岸に到達していることを示しています。
この度、(株)東ソー分析センターのご協力で、FT-IR(フーリエ変換赤外分光法)によるカルボニルインデックスの再調査と、GPC(ゲル浸透クロマトグラフィー)による分子量の分析を行いました。結果が同社の技術資料として公開されましたので、ご覧いただけます。ここで、試料②の採取品(水田)は水田の土壌中の樹脂被覆を冬季(刈取り後)に採取したものです。
この結果から、カルボニルインデックスも、GPCから求まった平均分子量も、徐放性肥料の①新品、②水田からの採取品、③海岸からの採取品で大差の無い事が判明しました。これは、前述のように、樹脂被覆がほとんど劣化しないで海岸に到達していることを示しています。
千葉研究室では吉崎海岸の調査を継続しており、海岸での劣化状況、再漂流状況などについても詳しく調べてゆく予定です。